チェロの曲で最も重要かつ有名な曲と言っても言い過ぎではないのが、ヨハン・セバスチャン・バッハによる「無伴奏チェロ組曲」ですね。そして、チェロ弾きであれば、なおさら、その存在を一際特別なものとして意識しないわけにはいきません。
しかし、この、今となっては特別な曲も、パウ・カザルスによって再発見されるまで日の目を見ることがなかったというから驚きです。
カザルスといえば、カタルーニャ出身のチェリストで19世紀から20世紀にかけて活躍し、近代的なチェロの奏法を確立、その後に続く多くの著名なチェリストたちにも多大な影響を与えました。
スペインのファシズム統治時代には祖国を離れての暮らしを余儀なくされましたが、その経験から生涯、音楽を通じて平和をうったえ続けました。
晩年の国連での平和スピーチと演奏は伝説として歴史に刻まれています。
Sant Salvador
Barcelona Sants駅からRenfeで1時間ちょっと行ったところに、Sant Salvadorという地中海に抱かれた小さな町があります。
一般受けするような観光名所があるわけではないので、なかなか訪れる人はいないと思いますが、実は、そこにはカザルスが晩年を過ごした家があります。いまは博物館として公開されています。
なかなかなに立派な邸宅です。チケットを買って中に入ると、カザルスにまつわる様々な資料が展示してあります。
偶然なのか、日常なのかはわかりませんが、その日はぼくしかお客さんはいなかったので展示をじっくり見て回ることができました。彼が使った楽器などもあって、とても興味深いものではあったのですが、なによりも、彼の息づかいとまではいかなくとも、生活の雰囲気というか、リズムというか、そういうものを垣間見ることができます。
そして、個人的にお勧めしたいのは実は博物館の外にもあります。
邸宅は白壁に囲われており、素敵な庭があるのですが、庭を抜け、その白壁のアーチをさらに抜けると穏やかな地中海が広がっています。
晩年のカザルスは砂浜を散歩してピアノを弾いてそれからバッハの無伴奏チェロ組曲を弾く。これが毎朝のルーティンだったのだとか。
静かな砂浜に打ち寄せる波の向こうの水辺線に目をやると、雲の合間から神々しい光の筋が差し込んでいました。このように穏やかな平和な時をかみしめながら祈るようにチェロを演奏していたのかもしれません。
もし、この博物館を訪れる機会があったら、ぜひ、砂浜を散歩することも忘れずに!

それから、彼自身や彼の周囲の人たちの語録をまとめた本「鳥の歌」にはいろいろな逸話が紹介されていて、読み進めると彼の頑な人柄や音楽が立体的に立ち上がってきます。
カザルスに興味を持たれた方がいらしたら、お勧めの一冊です。
