Classiiでは、ウェブ上で公開されているオープンデータを組み合わせ、クラシック音楽に特化した知識データベース「ClassiiDB」を構築しています。
これまでの主要なデータソースは、Wikidata、Wikipedia、MusicBrainzの3つでした。そして今回、新たにRISM(International Inventory of Musical Sources)のデータセットを追加しました。
RISMとは
RISM(International Inventory of Musical Sources)は、世界中に残る音楽資料を調査・記録する国際的なプロジェクトです。
1952年に設立され、現在はドイツ・フランクフルトのRISM Central Officeを中心として、世界各国の研究者や図書館、博物館、文書館などが協力してデータの整備を進めています。
収録されているのは、印刷譜だけではありません。作曲家の自筆譜、写本、初版譜、蔵書、図書館や修道院に所蔵される歴史的な資料など、クラシック音楽研究に欠かせない一次資料が数多く登録されています。
これらの資料は、世界中の音楽学者が長年にわたり蓄積してきた成果であり、クラシック音楽分野では最も重要な典拠データベースの一つと言えるでしょう。
RISMのデータを調査してみる
RISMでは、レガシーデータセットと比較的新しいRISM Onlineと2系統が公開されています。
各資料ページごとにRDFやMARCXMLが公開されているほか、ダンプデータや各種APIが提供されています。
RISMのデータは基本的に人物典拠データと資料データで構成されています。一部の作曲家については作品目録ごと(バッハ作品主題目録番号BWVなど)の整理もされており、作品目録と紐付く楽曲についても典拠が登録されているようでした。
資料データについては、世界中の図書館の目録ページなど、オリジナルの書誌データへのリンクや、中には、資料画像へのダイレクトリンクも含まれているケースもあります。昨今、文化機関のデジタルアーカイブではIIIFなどの標準技術仕様にのっとり、高精細画像や詳細なメタデータを提供する機関も増えて来ており、ウェブブラウザだけあれば世界中どこにいても資料を閲覧できる環境整備が進んできています。
アーティストと作品データを大幅に拡充
今回、Classiiでは、Classiiの登録アーティストと連携可能なRISMの作曲家典拠およびそこから辿れる資料を中心にデータを統合しています。
その結果、一部のメタデータを補完できたほか、これまで収録していなかった多くの歴史的作曲家を追加することができました。
また、アーティストが増えたことに伴い、それらに紐付く作品(Works)、録音(Releases)、動画(Videos)もあわせて増加しています。最新のレコード件数は以下のとおりです。
Artist: 17,949 (9,279)
MusicGroup: 1,218 (1,218)
Work: 308,945 (281,811)
ReleaseGroup: 106,093 (96,989)
Release: 140,476 (126,585)
Video: 120,155 (54,734)
Catalog: 590 (590)
Source: 542,726 (0)
※()はRISM拡充前の件数(ただし、RISMに関係なく補充されたレコードも含みます)
アーティストが約倍に拡充され、動画も倍以上に増えています。そして、なにより、RISM由来の資料が50万件以上も追加されました。
関連資料タブを追加
今回のアップデートで、アーティストページと作品ページに新しく「資料」タブを追加しました。
ここでは、RISMに登録されている関連資料を一覧できるようになっています。
作曲家の自筆譜や歴史的な写本、初版譜など、演奏や研究の基礎となる一次資料への入口として利用できます。
これまでは「人物」「作品」「録音」「動画」が中心でしたが、今回の追加によって「資料」という新しいレイヤーが加わりました。

演奏家にとっても研究者にとっても、実際の資料へアクセスできることには大きな価値があります。作品がどのような形で今日まで伝えられてきたのか、その背景までたどることができるようになりました。
データの信頼性を高めるということ
今回のRISMの統合で最も大きな価値は、データの信頼性が向上したことだと考えています。
これまでClassiiが主に利用してきたWikipediaやMusicBrainzは非常に優れたオープンデータですが、基本的にはコミュニティによって維持・更新されています。
もちろん、多くの専門家や愛好家によって高い品質が保たれています。しかし一方で、「誰でも編集できる」という性質から、研究用途ではその信頼性が話題になることもあります。
とくに、Wikidataについては、多くの権威データや図書館典拠を取り込んでいるため、一般的なコミュニティデータよりも一段高い信頼性を持っていると感じています。
そしてRISMは、研究者による音楽史の研究成果そのものです。
そのデータをClassiiへ統合できたことは、Classii全体の知識基盤を一段階引き上げる意味を持っていると考えています。
知識コモンズとして、さらに成長していくために
Classiiが目指しているのは、クラシック音楽の知識コモンズです。
録音や動画を探すサービスではなく、作品・人物・資料・録音・映像・レビュー・エッセイなど、さまざまな知識を一つのネットワークとして結び付けることを目標にしています。
今回のRISM追加は、その中でも「研究資料」という重要なレイヤーを取り込む第一歩となりました。
とくに研究者や演奏家のみなさんには、その価値を感じていただけるのではないかと思っています。
今後も、クラシック音楽にとって重要なオープンデータについては積極的に調査を進め、ClassiiDBへ統合していく予定です。
データを増やすこと自体が目的ではありません。
それぞれのデータセットが互いにつながり、新しい発見や学びにつながる知識のネットワークを育てていくこと。それが、Classiiの目指している未来です。