Classii.muでは、レコードの時代から現代のデジタル配信まで、約9千人のアーティストによるおよそ9万6千件のリリース音源情報を扱っています。アーティスト、リリース日、対象国、レーベル、収録曲といった基本情報に加え、取得できるものについては試聴用プレイヤーや購入リンクも表示されます。
クラシック音楽の録音史をたどると、その始まりは19世紀後半にまで遡ります。1877年の蓄音機の発明以降、音楽は初めて「記録され、再生されるもの」になりました。時代はロマン派後期。ブラームスやチャイコフスキー、ドヴォルザークといった作曲家たちが活躍していた頃です。
そうした作曲家の中で、ブラームスは1889年に自らの声とピアノ演奏を録音として残しています。音質は決して良いとは言えませんが、YouTube でその音に触れることができます。
サン=サーンスもまた、新しい技術に積極的で、1900年代初頭にいくつかのピアノ演奏を録音しています。69歳から80代にかけての演奏とは思えない、輪郭のはっきりした軽快なタッチが印象的です。
当時はまだ、オーケストラの大編成を録音することは難しく、交響曲の本格的な録音は、マイクロフォンの登場を待って20世紀に入ってから可能になります。やがて CD が登場し、収録時間や音質は飛躍的に向上しました。さらに時代が進み、いまではサブスクリプションによる配信が当たり前になりましたが、アナログレコードが再び注目を集めているというニュースも、記憶に新しいところです。
ClassiiDB に登録されているリリース情報の中で、もっとも古い年を持つものは、1890年とされています。ジュゼッペ・ヴェルディによる《Il trovatore》の録音です。
この音源について調べてみると、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の Cylinder Audio Archive に該当資料が保存されており、Web 上で実際に聴くことができます。メタデータには「Release year: approximately 1894」とあり、厳密には1890年から少しずれている可能性も示されています。ClassiiDB の情報としては完全に正確とは言えないかもしれませんが、それでも、19世紀末という時代に録音された音源であることは確かです。
媒体として記載されている「brown wax cylinder」は、1890年代中頃以降の蓄音機の特徴を示すもので、現存する録音資料としてはごく初期の、非常に貴重なものとされています。このアーカイブには、1万点を超えるシリンダー録音が保存されているとのことで、技術史と音楽史の双方にとって、重要なコレクションだと感じました。ぼく自身も、いつか訪れてみたい場所のひとつです。

Title: Edison Class M phonograph
Creator: Edison, The oldest machine in the British Library Sound Archive's collection. 1893
Institution: The British Library
CC-BY
1890年という数字は、ClassiiDB の中では、単に「最も古いリリース年」を示す値にすぎません。けれど、その背後には、音楽とテクノロジーが初めて交差し、時間を越えて音が残りはじめた瞬間を象徴する数字でもあります。その時代から連綿とつづく技術革新、そして、アーカイブ活動のおかげで、ブラームスやサン=サーンスの演奏が、いまこの瞬間に Web 上で手軽に聴けるという事実には、あらためて感慨を覚えます。
もし蓄音機の発明がもう少し早かったなら。ショパンやリストの演奏も、どこかに残っていたかもしれません。そんな想像をしてしまうのも、こうしたアーカイブに触れたからこそです。
Classii.mu では、アーカイブとして残された時代の断片をつなぎ合わせることで、そこから立ち上がってくるクラシック音楽の新たなストーリーに光を当てていきたいと考えています。
ぜひ、みなさんが見つけた時間の接点や、心に残った音の記憶も、シェアしてください。